代償

残り香が。

~上時side~


文香が出ていって。
「………仕事、行くか」
纏わせていたワイシャツを手に取る。
残り香だけが。
そこにはあった。

「………」
あいつは。
一体………。

天の邪鬼は俺だ。
本当に。

思っている事も言えず。
反対のことばかり言って。
行動も。

あいつを、帰したくなかった。
鎖で縛ってでも。
帰したくなかったのに。

そうは、出来ない。
………。
そう、したかったのに。
「………バカ」
誰に聞かせるわけでもなく。
呟いた。

呟いて、諦めた。
あいつを引き止めるのは。
今からなら。
まだ間に合うか?
………間に合わないさ。
あいつが相当、亀並みに歩くのが遅ければ。

………本当。
相当、振り回されてるのか。
あんな小娘に。

小娘なんかじゃない。
『女』だ。
………本当。
成長するのが早いな。
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