代償

宣戦布告。

「………ん」
「風邪か。ついに」

5月なのにコートを肩にかけている。
袖は通してない。
「………何で………上時………」
「ダメか」
2階だよ、ここ。
何で、上時………。
どうやって。
「………っ」

頬を包む手。
温かいけど………。
「バカ野郎………」

ダメだ………思い出す………。
2階に不法侵入してきたのに。
「………どっちが………バカ野郎なのよ」
「俺だよ」
「否定、しなさい………」
バカはどちらも。
嘘ついて、風邪引いた私。
2階に不法侵入してきた上時。
「不法侵入者………」
「そうだな。でも、何も盗らねぇし、殺しもしねぇよ」
「許可してない」
「黙れよ」
再度、口を塞がれる。
そのまま、押し倒される。

「文香ー?」

部屋の外で、勇人さんが言う。

嘘!?
ダメだって………。
開けないで………!!

「ダメ!開けないで!!」
上時の手を振り払い、叫ぶ。
「何したんだ?」
「ダメだから!!」
「何が」
「せっ………」
うわぁ。
言うべきか………。
でも。

「『せ』?」
「………生理、きたから………」
上時が口許を手の甲で覆い、笑いを堪える。
………何で笑うのよ。
「………悪い」
信じた!!
よし!

そりゃ。
男が突っ込みにくい事だもん。
女子の常套手段でもあるか。

「上手い嘘だ」
上時が囁く。
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