代償

傷口。

名前。
『文香』じゃなくて、『冬音』って、呼ばれた。
………何だろ。
小さくショックを覚える。
どっちも。
私の名前なのに。

………何で?

『文香ちゃん、城時さん、泣きそうな顔してるよ』
「………もう、やめて」
『白黒ハッキリつけなよ』
「迷惑だから………」
『僕、知ってるもん』
勝ち誇ったような言い方。
何で?


『死に場所、探してること』

死に場所?
「───え?」
『でしょう?城時───上時さん』
1拍置いて。

『───ああ』
肯定した。
否定じゃなくて。
『いつ、気付いた』
『今さっき。だって、昔』

自殺志願者だったんでしょ?

───自殺志願者だった?
───何で?
それは、私だよ?
自殺志願者で、死に場所を探していたのは。

『そうすると、話が通じるしね。点と点が線で繋がったよ』
『───』
『2月も休むなんて。死ねなかった時の療養期間だろーね。でしょ?』
『ご名答』
『死ぬ気満々じゃない。なら、』

何でこの世に生まれてきたのさ。

『───好きで、生まれた訳じゃない』
< 168 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop