代償

喪失。

「文香ちゃん、キャーラ!!!」
ユートさんが、走ってきた。
………何事?
そんなに焦って。
「総長が………!」
───起きた?
目ぇ覚めたの?
「総長が、目ぇ覚ました!」


病室に戻ると、凜音さんが泣いている。
………何で?
私、落ち着いているの?
こんな………。
マスターも、目頭を押さえている。
………泣いてる?
………何で?
嬉し泣き?
「………上時?」

上時はベッドの上で、起きている。
私に気付いたのか、ゆっくりと顔を上げた。

───2ヶ月ぶりに、上時と向き合った気がする。
「………」
何で、何も言わないの?
何か、言ってよ。
ベッドに近付く。
上時はベッドの上から、私を見上げる。
私は見下ろす。

───痩せたね、君。
少し痩けた頬。
あの時に比べれば、まだましだけどね。
「………上時」
ただ、黙って見る。
───何を、言いたい?
何か言いたげで。


「───?」
微かに動く唇。
聞こえない声。
───?
何を言って───
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