ゆず図書館。*短編集*
 

「え?……あ、あの?」


私の目をじっと見てくる愛しの人。

今までに一度だって言われたことのない台詞に私は戸惑ってしまう。

ど、どうしたんだろう?

いきなり子どもみたいな台詞……。

何も言えずに固まっていると、すっと手が伸びてきて、その長い指が私の唇を揉むように触れた。


「っ!」


その表情はいつになく愉しげだ。

何かおかしい!と思いつつ、私はその指の動きに翻弄されるだけ。

触れられているところから熱がこもっていく……。

ヤバい……何か……


「…………くくっ、何てね?ビックリした?」

「……!」


私の唇から指を離し、くすくすと目の前で笑うのは、付き合って半年ちょっとの7歳年上の彼氏の比呂(ひろ)さん。

もしかして、からかわれたの!?


「もうっ!ビックリしたじゃないですか!急に変なこと言うから!」

「ごめんごめん。くくっ」


彼はいつも余裕で、私はそれに振り回されっぱなしだ。

いつかはやり返したい!と思いながらも、なかなかその機会には恵まれない。

でも“振り回される”とは言っても、こんな風にマンガとかでよくありがちなことはされたことはなくて、いつもは“オトナの余裕”を見せつけられるような台詞を言われるだけなのに。

……それは決して嫌ではなくて、むしろ大好きだったりするんだけど。

何の心境の変化だろうか……新しいからかい方を見出だした、とか……?

 
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