死ぬまで
死ぬまで
 大きなくちばしのようなハサミの、鋭く尖った刃を喉に押し当てる。
それはひんやり冷たくて、その冷たさとは反対に、頬は熱くなる。
緊張で手が少しだけ震えるんだ。
だけど心は冷えたままで、僕はもう一度ハサミを握り直す。
そして、今度こそ喉に突き立てた。鮮血が飛び散る。手をぐいっと下に下げると、それで喉がぐわっと裂けるんだ。
 血は流れ続けて、視界は徐々にぼやけてくる。
薄れゆく意識の中で、僕は君の笑顔を見るんだ。
そして幻の君は、僕になにか話しかける。
でもその言葉は少しも僕に届かない。僕にはこれっぽっちも聞こえないんだ。
それなのになぜだか君の笑顔が愛しくなって、今更僕は生きたいと願ってしまう。
けれど叶わずに覚めない眠りが僕を包み込んだ。
 真っ白な世界に、僕の意識はふわふわ漂っている。
ぷかぷか浮いていると思ったら、急に下降しはじめた。
ものすごい速さで、下へ、下へ、落ちていく。
周囲はどんどん暗くなる。
いつの間にか真っ暗になっていて、下降も止まる。
何も見えず、何も聞こえない。
 
 ぷつり。

 突然世界のすべてが消えるんだ。
暗いのか明るいのかもわからない。
遂に自分という存在すら溶けて消えた。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

昼の月

総文字数/2,300

その他8ページ

表紙を見る
あづさ弓

総文字数/1,940

歴史・時代4ページ

表紙を見る
願いは白い翼に託して

総文字数/2,982

その他16ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop