優しい君に恋をして【完】







玄関の中に入ると、玄関からまっすぐの廊下に、



お母さんが立っているのが見えた。



いきなり玄関の扉が開いたせいか、お母さんは少し驚いた顔で、


こっちを見た。




お母さんが廊下からリビングのドアノブに手をかけた瞬間、




「お願いします!」と、優が少し大きな声で言って頭を下げた。





お母さんはこっちを見ないで、ドアノブに手をかけたまま立ち止まった。





優は顔を上げて、お母さんを見つめた。






「夏休み前の日曜日 一日だけ あすかさんと 


一緒に出かけることを  許してください




お願いします」




そう言って、そのまままっすぐお母さんを見つめていた。




毎日無視されても、それでもお母さんに会おうとした優。


会ってくれるのを、


許してくれるのを、


毎日待っていたのに、



優が、行動を起こした。




お母さんは、しばらくずっとそのまま動かなかった。



じっとお母さんを見つめて、その答えを待つと、



カチャッとお母さんはリビングのドアを開けた。





やっぱりダメか......と思ったら、





「夕飯までには帰ってくるのよ」と、つぶやいて、


中に入っていった。





お母さん......








嬉しくなって優の顔を見ると、



優はまっすぐ前を見つめたまま、切なそうな顔をしていた。




あ.......優には聴こえなかったんだ、お母さんの言葉が。




優の腕にぎゅっとしがみつくと、優が驚いたように、


こっちを向いた。




「どこに行く?優はどこに行きたい?


お母さんが、夕御飯までに帰って来なさいだって」



優の左腕に自分の右腕を通したまま、


手話をして、


またぎゅっと腕にしがみついて顔を覗き込んだ。




優はホッとしたように笑顔になって、



目を細めながら、腕にしがみついている私の頭を、


大きな手のひらで撫でた。












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