優しい君に恋をして【完】



最寄駅に着き、

手を繋いだまま電車を降り、


階段を上った。



階段を上っている時も、

改札に向かっている時も、


ちら、ちらっと優は私の顔を見る。



きっと、何か私が話しているんじゃないかと、

気にしてくれているんだと思う。



その度に、私は優に笑顔を見せた。


大丈夫だよって


心配しないでって



話すときは、ちゃんと肩を叩くからって......



そんな気持ちを込めて、優に笑いかけていた。





改札を通ると、駅構内を出口の階段に向かって歩いた。



階段を降り、駅から出ると、


私は、優の前に立った。



「私はね、あっちのね.....」


ピアノ教室の方を指差した。


「ピアノ教室に行ってるの。


優は.....バス?自転車?」




顔を見ながら、ゆっくり話した。




優はロータリーにある、すぐそばのバス停を指差した。



「そのバス?」



私も指を差して聞くと、

優は頷いた。




「じゃあ、優を見送ってから、



ピアノ教室に行くね」




そう言うと、優は笑って、


手を繋いだままバス停に行き、


列の最後尾に並んだ。




しばらく待っていると、バスが来てドアが開いた。





列に続いて、優がバスに乗りこむ時、


繋いだ手を離した。




「また、メールするね」






私がそう言うと、優はぺこっと頭を下げ、


バスの中に入っていった。





優は私から見える場所に、つり革を持って立った。




私が小さく手を振ると、


やっぱり優は、小さく頷いた。



そして、バスが動き出し、優が見えなくなった。







また、明日も会えるよね......





ずっと繋いでいたから、


手がさみしくて、



いつもよりも、ずっと長く一緒にいたから、


隣がさみしくて......







しばらくその場から、

動けなくなってしまった。


















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