体育館12:25~私のみる景色~

「それじゃあ、昼休み終わるので戻りますね」


 これ以上ここにいる意味なんてないよね。


 それに結局、こんなとこに私を連れ込んで何を話したかったのかはわからない。


 佐伯先輩から目をそらして鍵に手をかけたとき、背中の方から暖かいものに包まれた。


「待って」


 壊れ物を扱うかのような手つきで、私のお腹に優しく手を回したのは、ここにいる佐伯先輩以外いない。


 今までのどんな時よりも近いその距離に、先輩の体温に、匂いに、鼓動に、翻弄される。


「せ、先輩……なんでっ」


 離して、なんて言えない。


 ずっとこのままでいてほしいと思う。


 だけど、どうしてこんなことするの?


 わたしの肩に頭を預けているからか、佐伯先輩のサラサラの髪が耳をなでてくすぐったい。


 呼吸のひとつひとつでさえも、聞こえてくる。


 私の心臓は早鐘をうって、今にも暴れ出しそうな勢い。


 佐伯先輩に、心臓の音が聞こえてないといいんだけど……。


 背中から感じる先輩の鼓動は、きっと少し速いくらいのリズム。


 これが普通の心音なのか、そうじゃないのかはわからない。


 佐伯先輩も少しは、ドキドキしてくれていたらいいのにね。


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