体育館12:25~私のみる景色~
「あ? 亜希。お前突っ立って何してんだ?」
「……っ!」
後ろからよく知っている声が聞こえて、慌てて紙切れをポケットにぐしゃっと押し込んだ。
声のした方に振り向くと、思った通り、そこには慶ちゃん先輩がだるそうに立っていた。
「あ、慶ちゃ……じゃなかった。中原先輩、おはようございます」
「おう。お前微動だにしないから死んでんのかと思った」
よかった。
この口ぶりだと、嫌がらせされてることには気が付いていないみたい。
「んで、そこに突っ込んだモン、ラブレター?」
「っはい!?」
なんてほっとしたのもつかの間で、ムスッと不機嫌な顔をした慶ちゃん先輩に睨まれた。
紙切れは見られちゃってたみたい。
ラブレターって勘違いしてるみたいだけど。
「どうなんだよ」
何も答えようとしない私にしびれを切らしたのか、慶ちゃん先輩がじりじりと近づいてくる。
ちょっと!
今は朝で玄関は人の出入り激しいんだから、こんなの誰かに見られたりしたら騒ぎになるからっ!
特にサエさんに見られたりしたら大変だ。
内心でそんなことを叫んでることを知らない慶ちゃん先輩は、私のすぐ目の前に迫っていた。