罪でいとしい、俺の君
「お前を紹介するつもりだった…でなきゃあんなところにわざわざ連れて行くか」
「わ、たし…?」
「俺と…一生関わって生きないか?両親の事で誹謗中傷はこの先もあるだろう。それでも俺はお前と一生を生きたい」
「私……」
「リア…俺と関わるのは嫌か?」

否定を示され、頬が緩む。抱き寄せて額にキスをすると、シャツを掴まれた。

「二十歳まで待とうと思っていたが…そんな忍耐もない。予定を早めるが…いいな?」
「ぅん…」
「お前の叔父に署名を貰いに行くか。何事も早い方がいい」

小さく【好き】と囁いた唇にキスを落として、俺たちはリアの生家を後にした。

「征志郎…こんな恥ずかしい仕事はこの十年近く初めてだ」

戻った井原は青筋を立てながらグチり始めた。
【役所に取りに行って欲しい書類がある】
井原は漸く収まった俺とリアに安堵しながらも、呆れ返っていた。
その日のうちにリアの叔父に署名を貰い、無事役所にも滑り込みで提出。

翌日の役員会でリアを改めて紹介し、報告も済ませた。予想通り難色を見せた役員連中だが、リアのデイトレードの実績を見て、ぐうの音も出なかったのには笑いが止まらなくなりそうだった。
社内ではクールで笑わないと言われる井原ですら、肩を揺らしていたくらいだからな。

あの日、リアを囲んで誹謗中傷したKプラント社長と古賀マシナリー社長、うちの常務には後日娘の言動を聞かせた。

「俺の妻に対する悪意ある言動を許す気にはなれないのでな」

井原のボイレコの内容に三者三様に竦み上がっていた。常務は定年も近い事だった為、やんわりと自主退社を勧め、二社とは取引を止めた。リアの見いだしたD物産との取引拡大で、Kプラントと古賀マシナリーは必要なくなったからだ。
リアのお陰で今や以前の倍近い規模に拡大したD物産の柏木社長は、リアが大のお気に入りだ。新社名をリアに付けてくれないかと頼みにくるほど、リアには感謝してもし足りないと言う。

相変わらずの暇を持て余す生活を強いられる事に我慢ならなくなったリアは、片っ端から資格検定に手を出し始めた。勿論、デイトレードは変わらずの勘の良さで、某メガバンクのロイヤルカスタマーになったほどだ。二十歳を越えていたらブラックカードを手にしていただろう。

リアはその資金を遊ばせる事なく、更に交通遺児団体に月々寄付を欠かさないが、それでも減る事もない。金に執着のないリアはそれでも堅実…に、貯め込んでいる。

最近、俺たちは引っ越しをした。メゾネットは譲れないと言うリアの希望通り、一階はバリアフリーの二客間と今までより広いリビングダイニング。二階は主寝室他四部屋。
これからは衝動買いが増えそうだ…リアも、俺も――。

「そこに二つも入ってるようには見えないね」
「井原…モノみたいに言うな」
「ちゃんと二つ入ってますよ~♪」
「リアっ」
「だって、中にいるんだもん」
「全く…征志郎がパパとかあり得ないな…」






甲斐リアになりました。
まだあんま実感ないけど、征志郎は吃驚するくらい甘やかしてくれる。
籍を入れて半年で妊娠発覚!なんと!十九で二児のママになります。あれあれ?って思って、病院行ったら妊娠九週目…三ヶ月で、しかも双子。
すぐに征志郎にメールしたら、役員会放り出して迎えに来てくれて。柏木社長は翌日には双子用のベビーカーを妊娠祝いにって届けてくれた。性別わかったら教えてって。
今になると…お父さんたちが私を連れていってくれなかったわけが理解出来る気がする。この子にはどんな出会いがあって、どんな人と結婚するんだろうとか……。
自分の都合で連れてはいけないな、って。
お父さん、お母さん。私、生きててよかった。お母さんが征志郎に会わせてくれたんだよね……きっかけは…最悪の形だったけど。
私も【ママ】になるんだよ。孫に会ってもらえないのは辛い…かな。
でも私と征志郎はお父さんたちに負けない家族、作るからね!






親父は俺がリアと籍を入れた事に見た事がないほど驚いていた。しかもリアは被害者遺族側で俺は直接ではないにしろ加害者側。お袋も罪の意識でそこまでしなくとも…と、真っ青になっていた。
しかし翌日には上機嫌なお袋からリアを連れてこいと電話があった。井原から俺の三年についての話を根掘り葉掘り訊いたらしい。
リアに直接会った事のない俺の両親だったが、打算や裏のない笑顔や人柄をすぐに見抜き、俺の目を誉めた。親父もお袋も改めてリアに謝罪したが、形は最悪にしろ母親が俺に会わせてくれたのだと。少し目を潤ませながらも健気に笑った。
実は親父やお袋は俺に男色の気があるのではと肝を冷やしていたらしい。相手は言わずと知れた井原だが。リアはカムフラージュではないかとの疑いも、俺の態度と表情ですぐに消えたそうだ。
双子妊娠の知らせには、互いに孫の取り合いをしなくて済むと安堵した。わけのわからない心配をしていたらしい。

罪滅ぼしから恋に落ちた。子供だと思っていたリアは三年で見違えた。幼さはいかほどか残るものの、日々美しくなる。
誰かに奪われはしないかと手を拱いていたが、リアは両親を支える事以外には特に興味を示さなかった。女子高生のステイタスと言われているらしい、男との付き合いやどこまでヤッたかだの、クラブ通いにナンパ待ち、人気雑誌に掲載されるモデルの服や化粧を真似たり。
リアは最低限でしかしなかったし、男と付き合うこともなかった。十日に一度は様子を見に通っていたし、俺が初めてである事はハワイのクルーザーで確認してあるからな。
可愛い俺のリアがあと数ヶ月で子供にかかりっきりになるのかと思うと、些か悔しい気もするが。俺が望んだ事でもあるし、何よりリアは家族を欲しがるだろう。穏やかで明るく暖かい家族を。

これが俺からリアの為に出来る一番のプレゼントになればいい。

「あ、動いた」
「元気だな」

昨日はリアと検診に付いて行ったが、二人入っているだけあって他の妊婦より腹がデカい。小柄なリアは腹から転びそうで心配が絶えない。
順調に成長しているらしいが、エコーを見せられても何がなんだか…動いているのはわかるが。

「そぉいえば性別わかったんだよ♪」
「どっちだった!?」
「え~とね――」

いずれ結婚して跡継ぎを作るようには親父たちから言われていたが、俺が自ら望んで親父になるなんて考えもしなかった。

「いい名前…付けなきゃならないな」
「うん。カッコよくて将来有望な征志郎みたいな名前と、可愛くて優しい感じの名前がいい♪」
「注文が多いな」
「だって…嬉しいもん」


祝福されて生まれてくる我が子を思いながら、俺とリアは見つめ合って元気に蹴り返される腹を撫でた―――。


< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:35

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

美しい月
継夏/著

総文字数/50,683

恋愛(純愛)22ページ

表紙を見る
月と太陽
継夏/著

総文字数/5,038

恋愛(純愛)3ページ

表紙を見る
愛しい太陽
継夏/著

総文字数/39,311

恋愛(純愛)17ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop