ただ、名前を呼んで

母は父を心底愛していた。例えば、父の代わりに呼吸さえもしてしまいそうなほど。

従順な母の愛は余す所なく父に向けられていた。

そんな母は、父が苦しみながら自ら命を経った事に責任を感じていた。

もっと自分が父の苦しみを背負っていれば。なんなら自分が代われば良かったと。

そして悔いに押し潰され、最愛の父の居ない世界を拒絶し、母は違う世界に行ってしまった。

ひたすら空虚を見つめ、時折ブツブツと呟く母。

その目は何を映し、その唇は何を囁いているの?
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