ただ、名前を呼んで
そう思ったのもつかの間。母はまた空虚に視線を戻してしまった。
母の柔らかそうな長い髪が、その華奢な肩から垂れる。
色白い肌の細くしなやかな身体。
むちゃくちゃに抱き着きたい衝動をなんとか抑え、母の視線の先を見た。
何もない。
だけど目が合うようになったのは進歩だろう。
良くなってきているのかもしれない。
この前、祖父が僕に呟いた言葉が不意によぎる。
「お前、拓郎に似てきたな。」