ただ、名前を呼んで

そうだよ。

例え僕を知らないままでも、僕の事が分からなくても。
母の心が戻るならそれで良いって思ってた。

だけど怖い。
すごく怖いんだ。

母の痛みを実感するたびに、僕に重たい何かがのしかかる。


僕から一向に視線を逸らさない祖父に顔を向ける。

窓からは緩い風が入り込んでくるけれど、部屋の空気はピンと張っている。

風に揺れるカーテン以外は、この部屋全体の時間が止まったようだった。
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