ただ、名前を呼んで

「じいちゃん。」


テレビの画面を見たまま、独り言みたいに僕は呼ぶ。

祖父は何でもない顔をして、または装って、僕の顔を見る。


「お母さんに会いに行かない?」


僕の突然の誘いに目を丸くする祖父。

祖父も祖母も、母を今の施設に入れる手続きをした時以来会っていないと言う。

良くなってきた母を見て欲しかったし、知り合いに会えばまた何か変わると思ったんだ。


僕の淡い期待をよそに祖父は少しばかり渋い顔をしている。


「だめ?」


祖父はんん、と唸った。
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