ただ、名前を呼んで

「なんだ君は?」


彼は恐らく気付いているのだ。育ち盛りの僕の顔が、一体誰に似ているのか。


初対面の祖父は僕の身体を縛り付けるように見る。

これほど威圧的な眼を向けられたのは生まれて初めてだ。

立っている両足がみっともなく震える。


「あの……。」


やっとのことで声を絞り出した僕を、初対面の祖父が睨み付ける。

目を逸らしたかったけれど、負けちゃいけないと思った。

僕は額に汗が滲むのを感じながら言葉をつなぐ。


「僕は…佐原(サハラ)拓海です。佐原拓郎と、佐原カスミの息子です。」
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