最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「恭子さんのお宅はどちらなんですか?」


駅に向かって歩きながら、川田君が聞いてくれた。それなのに……


「同じ方向……」


愛想のかけらもない返事をしちゃった私。毒舌キャラというか無愛想キャラというか、そんなのでスタートしちゃったから本来の自分のキャラに戻すきっかけがわからない。そもそも、自分のキャラがどういうものかもわかっていないのだけれど。


川田君は、私が彼の乗り降りする駅を知っている事にひどく驚いていた。それはつまり、ちょくちょく私達が同じ電車に乗り合わせている事を、やっぱり彼は知らない事になり、彼の視界に私は全く入っていなかったという事だ。わかってはいたけども、少しショックだった。


ちなみに川田君の実家は地方にあり、彼はアパートで一人暮らしという事を、私は莉那から聞いて知っていた。


駅に着くと、川田君はホームに上がるべく階段を上がって行った。私はいつもエスカレーターを使うのだけど、それを彼に言いそびれ、仕方なく私も階段を上がって行った。少しぐらいは大丈夫だろう、と高を括って。


ところが、半分も上がらない内に私の心臓が悲鳴を上げた。胸の動悸が激しくなり、息苦しく、一歩も動けなくなり立っている事さえも辛かった。

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