恋する指先
「美伊っ!」


 つかまれた腕の強さに呼ばれたことに気が付く。

 
 つかまれた左の腕は、榛くんの長い指に掴まれていた。


「あ・・・ごめ・・・」


 振り向いて、榛くんの顔を正面から見てしまった。


 こげ茶色のフレームの眼鏡の奥の瞳が、じっと私を見つめていて、思わず視線を逸らしてしまう。


 横を通り過ぎる人達がチラチラとこちらを見ているのが気になって、掴まれている腕を右手で押し返した。



「な、何?」


 掴まれていた場所を自分の手で握りながら、顔を上げられずにそう聞く。


 声が震えた。


 涙が出そうだった。


 何を言われるのか、怖くて。


 逃げ出したくて、視線を合わせることも出来ない。


「・・・・・何でもない」


 榛くんは先に歩き出す。


 顔を上げたとき、もう、数メートル先を歩く榛君は手を伸ばしても届かない距離だった。


 ぽろっと頬に涙が伝い落ちた。


 だって・・・怖いんだもん。


 もうあの頃と違うって分かったら、余計に怖いんだもん。


 つかまれた腕に指の感触が残っている。


 冷たいあの指先の感触がシャツを通り抜けて、肌にジンジンと痛いくらいに残っていた。






 学校に着いても、気持ちが沈んだままだった。


 誰かがヒソヒソと私を見ながら話しているのが見えるけど、もう、そんなのどうでもいい。

 
 二階に上がる階段の踊り場。


 誰かの話し声が聞こえる。


 一人は女の子。一人は―――――榛くん。


 
「桐生先輩、私と付き合ってくれるんじゃなかったんですか?」


 そう言ったのは多分、前田さん。


「俺は付き合う気はないって言っただろ?」


 返事をしたのは榛くん。


「私、付き合ってるって思ってますから」



「ムリだから」

榛君の溜め息混じり声が響く。
その声を無視するかのように階段を降りてくる足音がした。


 そして、階段を降りて来た前田さんと正面から視線があってしまって、私はパッと目をそらす。


「盗み聞きですか?趣味悪いですね」


 思い切り嫌味を言われて、ごめんなさいと俯く。


 聞きたくて聞いていたわけじゃないけど、結果的にはそうなってしまった。


「青島先輩と桐生先輩って、何なんですか?」


 挑戦的な言い方。


 
「何って・・・・・」



「幼なじみ、だよ」


 頭上から声がした。





 
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