常初花
「とにかく、良かったわ。あんたがちゃんと結婚できそうで」


目尻に溜まった涙を指で拭いながら、湿っぽくなった空気を吹き飛ばすが如く明るく笑う。


僕も照れ隠しに、ミネラルウォーターをグラスに注いで一気に飲み干した。


「童貞捨てさせてもらったアヤサちゃんに、まだ未練たらたらだったらどうしようかと心配してたのよ」

「ごほっ」


いきなりの爆弾発言に、水が気管に入って激しくむせた。


「なんで知ってんの?!」

「中2の時よね?」


口元を抑えながらにやりと笑う母親。
だから、なんで知ってんだって。


「あんたみたいな雑な人間は、浮気はしないことね。絶対バレるから」


ネタばらしの代わりに、ありがたい忠告をいただいた。


「…どうかしたの?」


ひょっこりと彼女がキッチンに顔を出す。
長くリビングに一人にさせていたから、不安になって様子を見にきたのだろう。


慌てる僕の表情を不思議そうに首を傾げて見ていた。


「いや!なんでもないよ!」


慌てる僕を笑って母親の肩が揺れているのを、恨めしく睨んだ。



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