常初花
朝の挨拶で見せた笑顔が、彼女の本質そのものであったようで。


仕事にも前向きで、慣れないながらに常に笑顔を絶やさない彼女に、僕は一目惚れだったと言っても良い。


その年の夏には交際を申し込み、まだ初々しい彼女から半ば強引にOKの返事をもぎ取った。


営業事務の仕事をする彼女は、他の営業社員と接する機会も多い。
ぐずぐずと躊躇って、誰かに持っていかれるのを焦った為だ。


事実、同期の柏木も彼女を狙っていて。
彼女は知らないことであるが、影で火花を散らしたものだ。






「ねぇねぇ、見て」


彼女のマンションで寛いでいると。


トレーに乗せて来たグラスをコツンコツンとテーブルに並べていく彼女は、明るい声で今も変わらない笑顔を咲かせる。


「あぁ、随分集めたな。今年も行くんだろ?」

「綺麗でしょ。来週、また一個増えるの」


きらきらとそれぞれの色に光る琉球ガラス。


彼女は毎年夏になれば、友人と沖縄に旅行に行く。
社会人一年目からそれは毎年のことで、必ず一個琉球ガラスのグラスを買ってくる。


ひとつ、ふたつと目で数えて、首を傾げた。

今年で、9年だっけ?


「毎年1個ずつ。社会人になって、10年になったよ」

「10年だよな。じゃあ、1個は割ってしまったんだっけ」


それには答えず、彼女はうっとりとグラスを並べていく。

初々しかった彼女も、今ではすっかりベテランとなり、新しく入った女性社員から、良くも悪くもお局と囁かれるようになった。




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