とけていく…
 二人の間に風が通り抜けた。その風は、紫の目に溜まっていた涙を頬に流し、その涙は街灯の光でキラキラと光っていた。

「由里が死んだ時、何もかも失ったと思った。もう、ピアノは弾けないだろうって思ってた。でも、彼女が突然現れた。単純なんだなって、思った。彼女を見たら、また弾きたくて弾きたくて仕方なくなった。」

「あの人のことだよね?」

 紫の問いに、涼はゆっくりとうなずいた。

「思い出すんだ。由里さんを…」

 紫はうつむき、目線を落とす。そして落胆していた。

「好きなんだ、彼女のこと…」

「分からない。でも、時々二人が重なるんだ。苦しくて、仕方なくなる… 出会ったことを恨まなければならないはずなのに、本当は気になって仕方がない自分がいるんだ…」

 涼は溢れる涙を拭いもせず訴えていた。もう、彼を止めることはできない…

「最初は彼女との出会いは、由里からのプレゼントだと思った。心の隙間が、埋まった気がした。でも、今ではもう、わからないんだ…」

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