とけていく…
「で、こっちの方の調子は?」

 そんな彼に、雄介はピアノを指差し具合を尋ねる。

「あぁ…、まぁ、 ぼちぼちね」

 まだまだ全然だったが小さく笑いながら涼が答えると、雄介は箸を置き、「あっそ。…ごちそーさん」と、そのまま立ち上がり、かばんを肩にかけた。

 雄介がリビングから去ろうとした帰り際、彼は後ろに振りた。

「ま、頑張れよ」

 相変わらずのニカっとした笑顔を浮かべた雄介は、大きな右手を広げてそう言った。

「あぁ」

 雄介らしい励ましを受けた涼も、右手を上げてそれに答えると、雄介はドアの向こうへと去って行った。そしてまた部屋には彼ひとりになった。

(もうひと踏ん張りだ…)

 雄介の食べた皿をキッチンに下げると、涼は練習を再開させた。

< 162 / 213 >

この作品をシェア

pagetop