とけていく…
「ただいま〜」

 真紀が大声で言いながら中に入るも、返ってくる返事はなかった。

「あれ、どこ行っちゃったんだろ… あ、突っ立ってないで、適当に座って」

 彼女に促され中に入ると、中は特別広いわけでもなく、こじんまりとした小さな店の作りだった。

 彼は入り口に近いカウンターの席に決め、座面が丸い椅子に座ると、店主のいない店内を見渡した。

 L字型の木目が立派な一枚板のカウンターは、きっと常連客が座るのだろう。そしてその背後には、大きな窓がふたつ。その窓に沿って同じ色のテーブルと椅子が、所狭しと並んでいた。

 カウンターの背後には、天井の高さまである棚が壁一面に広がっていた。その棚には、多種類の豆が収納されていて、店主のこだわりが感じられる。

 そして一番目を引いたのが、店の奥の角に溶け込むように置いてある、アメリカンウォルナットの木目と猫脚の丸みが美しいアップライト型のピアノだった。しかも、相当なアンティークの代物だ。その美しいいで立ちに、彼は目を奪われていた。

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