とけていく…
「…じゃ、あたしもう少し頑張ってもいい?」

「が、頑張るって…?」

 紫はうなずいた。

「涼がもっとあたしを見てくれるように」

 紫は探るように彼の顔を覗き込んだ。するとまっすぐに見つめられ彼女の視線から途端に目を逸らし、涼は頭をかきながらコーラのストローを強く吸った
。そんな様子を、紫は笑っていた。涼の顔が少しだけ赤くなったのだ。

「そんなこと、よく真顔で言えるよな…」

 彼はぽつりとこぼしたのだが、紫の耳には届いていないようだった。

 楽しそうに笑いながらしゃべっている彼女を前にして、涼は複雑な思いを抱えていたことは間違いなかった。

 紫のことは、嫌いじゃない。でも…

 すると、不意に雄介の言葉が彼の脳裏にかすめていた。

(努力しろ、か…)

 彼はまたドリンクのコーラのストローを加え、苦笑いを浮かべていたのだ。

「ねぇ、じゃぁ、せっかくだからさ、雄介の試合、見に行ってあげようよ」

 紫がいつもの調子で提案する。涼は諦めたように笑いながら小さくうなずくと、彼女は満面の笑みを浮かべて「やった! じゃ、あいつから詳しく聞いといて!」と自分のトレーを手に取り、紫は立ち上がった。そして彼に手を振ると、涼をひとり残して店から出て行ってしまった。その足取りは、さっきまでとは違い、軽そうだった。
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