ありがとうのその前に


まだ不安げなあたしの顔を見て翔吾は悲しそうな顔に変わった


『ごめん…それで最近様子がおかしかったんだな…心配かけてごめんな?』



そしてあたしは翔吾の香りに包まれた



いつもよりも力強い腕であたしを抱きしめた



『翔吾はあたしのこと好き…?』



涙いっぱいの目で顔を上げ、恐る恐る口に出してみると



『琴音が一番大切だと思ってるから心配すんな?』



そう言ってあたしの涙を人差し指で拭ってくれた後、翔吾は小さな声で呟いた








好きだよ







って。




その瞬間思ったんだ


この言葉に嘘はない。だってその気持ちがあたしの体中に流れ込んできたもん



だから信じよう。



1ヶ月前に信じられなかった自分が悔しかった



でも今なら信じられる



翔吾なら…



信じられる




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