ラブバトル・トリプルトラブル
 美紀は本当は負けたかったのだ。
その原因は秀樹と直樹にあった。
もし決勝戦で勝って全国大会の出場が決まったら、野球の応援に行けないからだった。


そんな気持ちでプレイをしても結果が良いはずがない。
昨日とは打って変わって絶不調。
でも……それでもいいかと開き直った。


(せめて決勝戦まではいきたい)
それでもそう思う。
美紀はまだ本当は諦めてはいなかった。



 (此処で諦めたら、ママの名前に傷が付く。そうだよ。私は長尾珠希の後継者なんだ。ママに夢続きを見せてやるんだ)

美紀の脳裏に正樹の入院していた病室で珠希のラケットを抱き締めた記憶がよみがえった。


(あの日私は、ママと同じ道を歩こうと決意した。でもそれはママではなく……私自身のためだったはずだ)

珠希の道を自分の夢とした時点で、それは既に自分の一部になっていたのだ。




 「締まって行こう」
後衛も気配を察して声を掛ける。


「オーライ。頑張って行こう」
サーブ位置で美紀はボールを上げた。
珠希の学生時代に勤しんできた軟式テニスとは 違い、前衛もサーブをする。
これが今のソフトテニスだった。


「ワンスリー」
審判がサーバーに得点が入ったことをコールした。


「よっしゃー、挽回するぞー」
美紀は小さくガッツポーズをした。


準決勝は結局美紀達の勝利だった。
後は決勝戦。
勝てば全国大会。
でも、美紀は結局敗れ去った。

相手側が強かった。
そう言ってしまえば聞こえはいい。
だが美紀には解っていた。
甲子園に行こうと頑張っている兄達を応援したくて実力を発揮出来なかったことが。


(絶対言えない。そう、実力が無かっただけなんだから)

美紀は自分を戒めた。


(どうせなら……全て勝ちたかった。勝って有利に進めたかった)

美紀は初戦のスマッシュが忘れられなかったのだ。


そんな思いが敗戦へ誘ったのだろう。

それでも美紀は頑張ったのだ。
頑張ったつもりだったのだ。


美紀は負けた。
完敗だった。

でもそれを珠希の思惑だということにした。

それを言い訳にしようと勝手に決め付けたのだ。
単なる誤魔化しにすぎないことは美紀だって解っていた。


(ママごめんなさい。本当は私が負けたいと思ったの。それなのに……、ママのせいにして)

美紀は珠希の形見のラケットをいつまでも抱き締めていた。



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