二重人格三重唱
父と二人の母
 高校生の薫は、テニス部の先輩が好きになり、熱い視線を送っていた。

先輩もまた可愛らしい薫が大好きになった。

その半年前、満員電車の中で二人は出会っていた。

孝が持っていたラケットが薫のお尻に当たり、痴漢だと間違われて睨まれたのがきっかけだった。

勘違いだと知った薫は孝にひたすら誤って、自分の名前・住所を告げた。

孝は笑って許していた。
この時、孝は高校二年生。
薫は中学三年生だった。

そう……
先輩とは日高孝のことだったのだ。


二人が再会したのは、薫がクラブ活動に初参加した日だった。

実は、薫は孝が気になって仕方なくなっていた。

あの日孝がテニスラケットを持っていたので、ここを選択したのだった。

孝が薫に気付き、交際がスタートした。

淡い初恋。
薫は優しい孝の虜になっていた。




 それから三年。
香は高校を卒業して、電車通勤をしていた。

孝は香を薫と勘違いをして、熱い視線を香に投げかけた。
一週間に一度出会う二人。

週末父親の看病のために家で過ごした孝は、大学へ通うために始発駅から少し早い電車を利用していた。

香は次の駅から乗り合わせて会社に通っていた。

薫だと思い込み、恋心を燃やす孝。

香も、毎回熱い視線を送ってくれる孝が物凄く気になっていた。




 父親が亡くなり、四十九日が過ぎると、孝は居ても立っても居られなくなった。


大学を卒業すると、電車通学も終わる。

薫に逢えなくなる。


そして、孝は薫に電話をした。

勿論プロポーズだった。




 突然の孝のプロポーズを薫は受け入れた。


薫は孝のことがずっと忘れられなかったのだ。


爽やかなスポーツ刈りに瞬きする度に揺れる長い睫毛。
汚れを知らないような深い色をした瞳が未だに薫を虜にしていたからだった。




 そして悲劇が起こった。

孝と薫の結婚の日取りをきめる口固めの日。
孝と香は出会った。


電車の中で熱い視線を送ってくれる孝を、香は激しく愛していた。
孝も香の薫とは違う魅力に堕ちていた。




 孝も香を愛していることに気付き運命を恨んだ。


孝は自分の胸に手を置いて、本当はどちらが好きなのか考えた。


答えなど出るはずがない。


孝は双子それぞれを本気で愛してしまっていた。


どうしても香と結婚式を挙げたい!
でも薫も愛してる。

落ち込んだ孝は不眠症になった。




< 120 / 147 >

この作品をシェア

pagetop