徹底的にクールな男達


 武之内のその堅い胸の中にすっぽり収まると葛西や鈴木とは違う、安心感があることは確かだった。

 背中をゆっくりとさすられると更に安心する。

「依子……。頼むから……結婚してほしい」

 ここまで言ってくれる相手もこの先いないかもしれないと思う。

 頭も撫でてくれて、心地良い気分にさせてくれる。

「…………」

 本当に私のこと好きなの? 聞いてみたかった。

 でも、聞けば怒りそうでやめた。

「…………」

 ずっと好きでいてくれるの?

 聞いても無駄なような気がして、やめた。

「……好きって言って」

 それでいいんだと思った。

「好きだよ」

 即答に、間違ってはいなかったんだと安心して手に力を込めた。

 いつから好きだったの?  聞きたかったけどやめた。

「も一回言って」

「……今言ったろ」

「……」

 それくらい、言ってくれてもいいのに。

「……愛してる?」

聞きたかったけど、やめた。

「分からない」

 とは言わないと思うけど、愛されていないような気はした。

 何故だか分からないけど、喉が痛くなって、涙が出た。

「……、そうやって大人しくしていてくれれば助かる」

 腹が立ったはずなのに、背中をさすられたせいで、戦力が失せた。

「元気な子になりますように……」

 何の遠慮もなく腹に手を当て、自らの分身に話しかけている。

 私の意思など気にもせず、私の思考など気にもせず。

 自分の願いが叶えばそれで、いいんだと強く思った。


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