素晴らしき今日

部屋はいたって普通だった。強いて言えば少し大きいくらいだ。
「…さくら?」
女の人は寝ている人物の顔を覗く。
「寝ているだけか」
そう呟くと胸を撫で下ろした。
「あ、ごめんね。そこのイスに置いといてちょうだい。助かったわ」
袋を両方からぶら下げて立ったままの俺にそう言ってくれた。
「あの…どういう病気なんですか?」
枕もとに置いてある呼吸器を見ると、普通の病室でない所を見ると、簡単な病気には思えなかった。
「え?この子はただの…少し風邪をこじらせただけよ。もうニ、三日で退院できるわ」
「そうですか」
「全然信じてないね」と笑われた。
確かに納得はいかなかった。さっき運ばされた大量の菓子類を見ると、もうじき退院出来る様に思えなかったからだ。
「はぁ、すいません」
「いいのよ。あなた名前は?」
「高瀬です」
「じゃなくて下の名前」
「和也です」
下の名前を言うのは少し恥ずかしかった。
「和也君。明日また来てもらってもいいかしら?」
「別にいいですよ」
「起きてるさくらに会ってもらいたいなぁ。って思って。ごめんね。我が侭な人で」
「いや、そんな全然大丈夫ですよ。それじゃ失礼します」
静かに扉を閉じた。
そして病院を出るまでの間、ずっとどんな病気なのかを考えていた。
しかし結論は出なかった。


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