それでも、課長が好きなんです!
 柏木佑輔と言えば、歳はわたしよりちょっと年上で十代からテレビで活躍している最近では映画の主演も務める人気俳優だ。
 デビューしたての頃は可愛くてキュートなルックスを売りにしていたけれど、
 ここ近年は役作りのためか身体を鍛えアイドルみたいだった愛想をふりまくような笑顔も消えめっきり男らしくなって大人のフェロモンすら感じさせる。
 ここまでは誰もが知っている彼の情報。
 そしてもう一つ、あまり世間一般には知られていない彼の正体がある。

「柏木佑輔が何か?」
「どうやら来秋に発売される化粧品会社と共同開発したボディクリームのCMキャラクターに、彼が選ばれたらしいの。近々発表になるんじゃないかな」
「……え、ボディクリームの宣伝に男性ですか!? ターゲットは女性ですよね? ていうか、柏木佑輔って……」
「しかも、女優の綾川 杏子(あやかわ きょうこ)との共演だってさ」
「えぇっ!!」
「これ以上にないってくらいの宣伝効果が見込めるわよね」

 柏木佑輔は世間では「とある企業の社長の息子」と知られているけれど、そのとある企業ってのがうちの会社なのだ。
 しかも女優の綾川京子はうちの社長が数年前に再婚した再婚相手。
 だから二人は血の繋がらない母子というわけだ。
 一時期話題にはなったけれど二人の共演は未だなかったはず。
 な、なんだか……面白そう!

「うちの会社も……一躍有名になっちゃうんじゃ」
「そうね」
「も、もしかして……報道陣やテレビとかが玄関口にいっぱいきちゃったりして!?どうしよう、服とか、髪とか!!」
「おめでたいよねぇ、若い子って」

 興奮するわたしをよそに溜息を吐く村雨さんに目を向ける。
 パソコン画面をじっと見つめ……あれ、微かに頬が赤い気がする。
 何を見ているのかな。

「村雨さんは柏木佑輔みたいな男性、好きですか?」
「き、急に何を言い出すの。興味ないわよ」

 眼鏡の淵を抑え明らかな動揺を見せた。
 さらに赤くなる頬を見て確信してしまう。

「もしかして、今パソコンで柏木佑輔見てました?」
「……はっ!?はっ!?」

 身体から発せられる熱の仕業だろうか。
 村雨さんの眼鏡が蒸気で一気に曇った。
 なんだろう……可愛いな。
 意外な一面にわたしの彼女に対するイメージが少しだけ変わった。

「秋には、社内が柏木佑輔のポスターやチラシでいっぱいになりますね!」
「だ、だだだだから違うって言ってるじゃない!」
「楽しみですね!」
「あ、あなた……」

 昼休憩を知らせるチャイムが社内に鳴り響く。

「村雨さん、一緒にランチしませんか?」
「懐かないでくれる?」
「……あーっ!眼鏡外した村雨さんの素顔、可愛い!!」
「せ、瀬尾さん!?いいかげんに……!」
 
 新しい部署でも相変わらず仕事で失敗してばかりのわたしだけれど。
 なんとか、毎日笑顔で過ごせています。

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