それでも、課長が好きなんです!
 それから三日間、会社に行って、仕事して……いつも通りの日常だったけど、足元はフワフワとしてすべてに身が入らない。三日間、村雨さんの怒鳴り声を聞かない日はなかったかもしれない。
 これから自分はどうするべきなのか、どう行動するべきなのか、考えれば考えるほど混乱して深みにはまる。
 理由は簡単だ、わたしは今、自分の気持ちが分からなくなっている。
 自分の気持ちに問いかけると同時に浮かび上がる二つの顔。なんて卑しい女なの。そして自己嫌悪。ひたすらこの繰り返し。
 無意識に「疲れたな~」って、呟くことも。もう、色々と限界かもしれない。
 四日目の早朝。
 まだ陽がのぼる前の豆電球の光だけの暗い部屋に、いつもの目覚まし音とは違う携帯の着信音が鳴り響いた。
 ディスプレイに表示された名前に飛び起きて、電話の向こうの声に指示されたとおりに身支度を整えて外に出た。
 自宅マンション前の路肩に、ハザードランプを点滅させたタクシーが停車している。
 そしてタクシーの前にたたずむ人影。

「佑輔君!?」

 顔を見て、早朝にもかかわらず大きな声が出た。
 頬に痣が出来ている。
 すぐに駆け寄った。でも痣の心配をする間もなく、腕を掴まれ停車しているタクシーに放り込まれた。
 ……えっ!?
 息つく暇もなくタクシーの扉は閉まる。
 どこへ行くの? 佑輔君は乗らないの?
 タクシーが発進する寸前に、扉を開けて飛び降りる。
 佑輔君の「危な!」のたった一声に、胸が熱くなる。

「佑輔君、わたし……わたしね!」

 興奮気味に声を発するわたしとは対照的な、佑輔君の「なに?」と言った冷静な口調にはっと我に返る。

 わたしは今、彼に何を伝えようとした……?

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