嗤うケダモノ

悪鬼を祓う不動明王の化身、なんて触れ込みで名を売ったが、そんなのはもちろん嘘っぱち。

私は私、久我 杏子。

それ以上でも以下でもない。

私にこの妙なチカラが芽生えたのは、女性特有の病気で子宮の全摘出を余儀なくされた15才の時だった。

麻酔から醒めて、ハイ、唖然。

目の前に広がったのは、まさにあなたの知らない世界。

その上、私の中に生まれたチカラは、ただ視えたり聞こえたりするだけのモノではなかった。

道を見失った霊を、あるべき場所に導くチカラ。

おかげで私のいた病室は、霊たちの迷子センターになった。

病院だから数が多いのもわかるケドさー…

看護師の巡回より頻繁に来やがるヨ?
私ゃ病み上がりなンだヨ?

迷惑千万デス。

百歩譲って、顔面の血くらい拭いてきてくンない?

そんなこんなで退院する頃には 私はすっかり霊の扱いに慣れていた。

だけど、誰にも話さなかった。

女性として大切な機能を失った私のメンタルを気遣う両親に話しても、きっと心配させるだけだろう。

同世代の友人に話しても、時期的に『中二乙』と失笑されて終わるだろう。

生きていくのに必要ない能力だが、あっても特に支障はない。

自分の心の中だけに留めておこうと、私は決意した。

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