嗤うケダモノ

由仁は軽く肩を竦めた。


「男同士のケンカに、そーゆー無双系のチカラ使うのは反則でショー。
カッコ悪ィじゃん。」


欠伸混じりにそう言った後、スタスタとベッドに向かう。

今度こそ本格的に寝るつもり。

掛布団の下に潜り込んで行灯を消した由仁は…

ムクリと上半身を起こして、ちゃぶ台に座る空狐を見た。


「ジーチャン、俺、寝るケド。
寝首掻いたりしないでネー?」


妖艶に嗤いながら‥‥‥

由仁が静かな寝息をたてだした頃、空狐は屋根の上で月を見ていた。

殺気を漏らしたつもりはない。
大神狐とまで呼ばれる自分に、そんな過ちはあり得ない。

なのに、由仁には読まれていたようだ。

事の成り行き次第では、彼を殺そうとしていたことを。

だから急遽チカラを使うのをやめたのか?
いや、目論見が外れて慌てる様子は微塵もなかった。

じゃあ…

最初から殴り飛ばす気でいたのか?
生身のまま、感情と殺意を剥き出しにした霊体を?

まっさかぁ‥‥‥ まさか?


「食えん男じゃのぉ…」


長い顎髭を撫でながらボヤいた空狐は、夜空に紛れるように姿を消した。

< 161 / 498 >

この作品をシェア

pagetop