嗤うケダモノ
由仁は軽く肩を竦めた。
「男同士のケンカに、そーゆー無双系のチカラ使うのは反則でショー。
カッコ悪ィじゃん。」
欠伸混じりにそう言った後、スタスタとベッドに向かう。
今度こそ本格的に寝るつもり。
掛布団の下に潜り込んで行灯を消した由仁は…
ムクリと上半身を起こして、ちゃぶ台に座る空狐を見た。
「ジーチャン、俺、寝るケド。
寝首掻いたりしないでネー?」
妖艶に嗤いながら‥‥‥
由仁が静かな寝息をたてだした頃、空狐は屋根の上で月を見ていた。
殺気を漏らしたつもりはない。
大神狐とまで呼ばれる自分に、そんな過ちはあり得ない。
なのに、由仁には読まれていたようだ。
事の成り行き次第では、彼を殺そうとしていたことを。
だから急遽チカラを使うのをやめたのか?
いや、目論見が外れて慌てる様子は微塵もなかった。
じゃあ…
最初から殴り飛ばす気でいたのか?
生身のまま、感情と殺意を剥き出しにした霊体を?
まっさかぁ‥‥‥ まさか?
「食えん男じゃのぉ…」
長い顎髭を撫でながらボヤいた空狐は、夜空に紛れるように姿を消した。