嗤うケダモノ

だが空狐には、薄いリアクションにツッコむ余裕もない様子。

顔も上げずに論文に取り組み続ける由仁の頭をパシンと叩いて喚いた。


「聞け、由仁!
ヒナちゃんに、えらいモンが憑きよった!」


「?
つく、とは…
っおい?!ジン?!」


眉を顰めた樹が詳細を訊ねようとした時には既に、由仁は机を蹴って立ち上がり、駆け出していた。

またも脇目も振らず、驚異の速度で。

部室前の廊下まで来ると、百合の悲痛な叫びが聞こえてきた。
必死で日向の名を呼んでいる。

扉を開けて部室に飛び込んだ由仁は、無言で二人に駆け寄った。

目を開いたまま、虚ろな表情でソファーに横倒しになった日向。
その手の中には、見慣れない小さな箱が…


「急に倒れたの!
呼吸はしてるケド、意識が…
早く樹を呼んで… ジン!」


青い顔で叫ぶ百合を、もっと蒼白になった由仁が押し退けた。

コレを。
この箱を。

消し去れば…

金色の瞳。
白い肌に浮かび上がる、朱い隈取り。

白い陽炎を身体からユラリと立ち昇らせた由仁が、日向の抱く箱に手を伸ばす…

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