嗤うケダモノ


由仁があのスニーカーを手に取った瞬間、眠っていた記憶が鮮やかに甦った。

今なら全て思い出せる。

街中よりは涼しいとはいえ、充分な暑さ。
影を落とす木々。
蝉の声。

腹部から足元にかけて血に染まった、白いポロシャツとベージュのワークパンツ、そしてスニーカー。

割れた頭から流れる血は地面に広がる長い黒髪を濡らしていたものの、青白くも美しい顔に汚れはなかった。

苦悶の色など微塵もない、穏やかな死に顔。

その左の目尻には…


「あったよ、ホクロ。
ジン、アンタと同じ場所に。」


落ち着いた藤色の付下げを纏った腰に伊達締めを巻きながら、杏子は鏡に映るドコかゲンナリした様子の由仁を見つめて言った。

部屋に帰った途端にネー。
始まったンだよネー。

杏子サンの生着替えショー。



いやいや…
そりゃ、色気は充分だケドさー…

いくら若く見えても実年齢はアラフォー。
加えてオカン。

当然由仁としては、有り難くもなんともない。

それでも由仁と日向の目も憚らず、鼻の下を伸ばして現れた空狐の目も憚らず。

ショーは既に終盤を迎えていた。

ヒナちゃんの生着替えと、チェンジお願いしてもイイデスカ。



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