嗤うケダモノ

千鶴子からの手紙が届かなくなったのは、彼女が手紙を書かなくなったからではない。

瑠璃子が、誰にも行き先を告げずに家を出たからだ。

そう、瑠璃子は自由になった。

最初は苦労もしたが、気ままな一人の生活は楽しかった。

働いて、稼いで、好きなモノを買って。
働いて、稼いで、好きなモノを食べて。

その後、ホステスとなって昔の惨めだった自分を忘れるくらい豊かな暮らしを送る中、瑠璃子はずっと仕舞ってあった千鶴子の手紙を見つけた。

今なら笑って読めるだろう。
ずいぶん遅くなったが、返事だって書けるだろう。

懐かしい気持ちで封を開けた瑠璃子は…

驚愕した。

母親は病気になっていた。
それも、完治が望めるものではなく、長期に渡って人の手を借りなければ日常生活も送れなくなるような病気に。

千鶴子は一人で母親の介護をしているようだった。

それでも千鶴子の手紙には、
『お姉ちゃん、元気?』
『昨日、こんな面白いコトがあったの』
『お母さんのコトなら心配しないでね』
などという、瑠璃子を気遣う言葉と楽しげな近況報告が溢れていた。

そして最後に届いた手紙には、就職先が見つかったと綴られていた。

その手紙を受け取ったのは、高校卒業前。
つまり千鶴子は中学卒業前。

羨ましいと思っていた妹は、母親と生活を支えるために高校進学すら諦めていたのだ。

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