嗤うケダモノ

目を見開いた瑠璃子は、口を噤んで俯いた。

脱け殻だった孝司郎は、声を殺して泣きはじめた。


「九尾がジンに憑いたのは、ジンを生きていけるくらい成長させるためだったンだねェ…」


由仁はナニも言わない。

日向も黙ったまま。

それぞれがそれぞれの思いに深く沈む静寂の中、誰に語るでもない杏子の独白が流れる。


「恨み辛みや自分の命すら二の次にして、子供のコトだけを考えるなんざ…
母親ってのは偉大だねェ。」


やっと明るみに出た18年前の真実は狭い半地下に満ち、そして…

開けっ放しだった、母屋に繋がる木戸の向こうにも聞こえてしまったようだった。


「今の話は‥‥‥本当なの?」


幼い口調。
だが、老人のように嗄れた声。

アンバランスな問い掛けが上から降ってきた。

涙を流したままの孝司郎が、弾かれたように顔を上げる。

ハイ。
この期に及んで、さらにややこしい展開キタ。

階段の上には、清司郎が立っていた。

木戸にもたれかかって。
手には柄の長い刈込鋏を持って。


「お父さんが…
千鶴子を殺したの…?」

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