嗤うケダモノ
もう台無しだよ。
感謝のキモチも消え失せるよ。
いや、消え失せたりはしないケド、気分的には『ありがとう』を返せだよ。
赤くなった顔を目一杯顰める日向を、両腕を広げた由仁が急かす。
「ホラ、早く逃げなきゃ。
てか、早く俺を抱きしめて?」
背後にある太陽に輪郭を縁取らせて艶然と微笑む彼は、まるで光を纏った王子サマ。
なのに、ナンナノ?
その、欲望をまるっと剥き出しにしたセリフは。
もう… ほんとに台無しだよ。
だがこの場合、他に逃亡の手段はナイ。
グズグズしていてアキたちに見つかると、迎えに来てくれた煩悩まみれの王子サマにまで被害が及ぶかも知れない。
(…背に腹はかえられん!)
唇を引き結んで覚悟を決めた日向は、由仁に向かって手を伸ばした。
その時…
ガンっ!
後ろで、ナニカがぶつかるような物音。
振り返れば、薄く開いたドアの隙間からアキが部屋を覗き込んでいた。
ヤバい。
状況もヤバいが、アキの顔はもっとヤバい。
吊り上がった目の中も、耳まで広がって笑っているように見える口の中も、全部黒い。
さっきより人間離れしている…