【完】白衣とお菓子といたずらと
明日の約束をして、細かい事まで決めると、彼女は明日も仕事だからと帰っていった。


先ほどまであった温もりが消えてしまった。


いよいよなんだよな。完全に人気のなくなった病室をぐるりと見回した。


俺は明日の午前中に退院するため、美沙とこの病室で会うことはないんだよな。


不運での怪我が、彼女との距離を縮めてくれた。


入院することがなければ、彼女が俺のリハビリの担当になることがなければ、きっと俺達の関係はただの同僚のまま。そして、お互いに気になる人止まりだっただろう。それとも、俺の入院は必然的な出来事で、美沙と俺の関係はもう決まっていたのかもしれない。


“運命”という言葉が頭に浮かんだ。こういう発想が、香坂たちに言われる言葉を使うとロマンチスト、悪く言うと女々しいんだよな。


自分で可笑しくなって、小さく笑った。


初めは嫌だと思っていた入院も、いざ退院が決まるとただ素直には喜べない。


ここに入院したお陰で、彼女を手に入れたと思うと、退院は嬉しいことのはずなのに、帰ることを嫌だと思う自分もいる。退院してからのほうが、周囲を気にせずに会う機会は増えるだろうけど。頭の中はごちゃごちゃとしていて、矛盾した考えが浮かんでは消えていった。


そして、一人ぼっちになってしまった病室で、少しだけ寂しい最後の夜を過ごした。
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