例えばここに君がいて


「はい、そこまで。まあ落ち着け」


俺と夏目の間に入り込んできたのは、珍しくスーツ姿の木下先生。


「ほら、野次馬共も消えろ。お前ら二人はこっち来い」


俺たちを囲むようにしていた人波は散り散りになり、俺たちはそのまま進路指導室に連れて行かれる。


「さて。何を騒いでいたんだ?」


高圧的に問いただしてくる木下に、俺と夏目は顔を見合わせる。


「何をも何も、夏目が勝手に騒いでいただけですよ」

「勝手にとはなんだよ」


再び喧嘩が始まりそうな気配に、木下が机を強く叩いた。


「いいから落ち着け。俺の見ていたところ、お前たちは一人の女を賭けて戦っているようだな」

「……そうです」


夏目はふくれっ面で頷く。俺は……なんか納得いかない。
賭けてっていい方はそもそもどうなんだよ。サユちゃんは物じゃないだろう?


「ふふふ、俺には分かる。お前たちのマドンナは葉山サユだろう」

「なんで分かるんですか! 先生」


夏目が弾かれたように立ち上がった。

おいおい、なんだこのクサイ芝居みたいなの。
それに今時、マドンナって言い方しねーから。


「サユも罪な女だな……。しかしそれ以上に俺が罪な男だ。いいだろう。俺がお前たちに協力してやる」

「はぁ?」


そのセリフには俺が反論する。
アンタついこの間、俺に協力するっていったばっかりじゃねーか。
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