甘い愛で縛りつけて
◇「――黙ってろ」



「河合さん、そろそろ上がれますか?」
「あ、はい」

事務長に言われて、デスクの上を整理する。

鍵は、事務長か田口さんが締めるのが暗黙のルールではあるけれど、田口さんが残っていても、事務長は帰らずに私が終わるまで待っていてくれることがほとんどだ。
本来なら、田口さんがいれば鍵をお願いして帰ってもいいのに残ってくれているのは、私の身を案じてくれているのかもしれない。

田口さんが節操がない事は事務長も知っているから、ふたりきりにして何かあったらマズイと思ってるんだと思う。

「事務長、僕がいますから河合さんを待たずに帰っても大丈夫ですよ」

そう言う田口さんに、事務長も、君がいるから河合さんを待っているんですよとは言えずに微笑むだけだった。
まさか自分が節操なしだなんて思われてるなんて夢にも思ってないのが田口さんのすごいところだ。

「事務長、私ももう片付けたらすぐ出られますから、お先にどうぞ」
「そうですか? じゃあお先に」
「お疲れ様でした」

笑顔で事務長を送り出してから、デスクの上を片づけて必要なモノを鞄に入れる。
そして帰ろうと田口さんに挨拶をしようとして、驚いた。

田口さんが帰る支度をして立っていたから。


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