小春日和
 

親にさえ信じてもらえなかった俺を、知り合って数カ月の姐さんが、信頼してくれている?



俄には信じられないが、だからこその今回の大抜擢だと言われると……やべえ。


何だよ、この胸の奥から湧き上がってくるゾワゾワとしたもんは。


全身に鳥肌が立っちまった。ついでに武者震いまでこみ上げて来ちまうし。



何だよ…何で俺、泣いてんだよ。
カッコ悪ぃ……



けど、胸の奥がじんわりと温かくて心が凪いでゆく。こんな感じも悪くねえな。



漢として惚れ込んだ組長の為なら、命を張っても構わねえ。いつか組長の側近として役に立ちたい一心で精進してきたが、今は姐さんが組長の横で笑っていられるよう仕えるのも悪くねえって思ってる。



佐武さん。俺にこの大役を任せてくれてありがとうございます。



俺は涙が滲む顔を見られないよう頭を下げると、姐さんの明日の朝食に姐さんが好きな卵サンドを用意しますと断ってその場を辞した。



 
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