赤ずきんは狼と恋に落ちる



***



「りこ、一晩中抱いて眠ってもええ?」

「はっ?!」




背中に回していた腕を解くと、予想していない言葉が飛び出した。







「何もせんから。今夜だけ。……嫌?」



一瞬浮かんだ邪な妄想を掻き消し、少しだけ距離をとって首を横に振った。








「嫌じゃ、ないです……」






***




その夜は、今までにないほど静かで、落ち着いた夜だった。




最初は少しだけ身構えていたけれど、千景さんは本当に何もしないで、ただ二人でぴったりくっついていた。




隣でゆるやかに肩を上げ下げしているところを見ると、千景さんはもう眠っているようだ。



寝顔を盗み見ると、何だかとても幼い感じがして、苦しい愛おしさが込み上げてくる。








離れたくない。






ずっと、ずっと、傍に居たい。

でもそれは、叶わないような気がする。




「いつ壊れてもおかしくないほど、脆い関係」





そう何度も言い聞かせてきたつもり。




分かっているのに、それを否定したい気持ちが大きくなっていく。








「いなくならないで……」







千景さんと居られる時間が、もう長くはないことを、何となく予感した。




いつか、千景さんは私の前から消えてしまう。






消しても消しても残る不安を閉じ込めるように、頬に触れるだけのキスを一つし、隙間がないほどくっついて眠った。


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