赤ずきんは狼と恋に落ちる



「片付いているんですね」



嬉しそうに笑う宇佐城さんを見て、私もつられて「ははは……」と力なく笑う。




「昨日、掃除したんです。何だか、色々考えてたんで……」

「何かあったんですか?」

「ちょっと……。彼氏に振られちゃいまして……。すっきりしようと思って掃除を……」




そう言って、わざとらしく空元気に笑う。

狭い部屋なのに、私の虚しい笑い声がやけに響いてしまった。



無表情のまま、宇佐城さんは私をじっと見ている。




「すいません、余計なこと訊いちゃって……」

「そんな、気にしないで下さい。元はと言えば、私が……」






「ダメなんだから」。






また、言ってしまいそうになった。



どうしよう。

また泣きそうになってしまった。



下手な作り笑いを浮かべながら、たまらず下を向いた。



やだ。
今泣くなんて。


我慢して、無理矢理涙を落とさないようにしていると――。







突然、両頬を宇佐城さんに挟まれ、クッと上に向かされた。




「宇佐城さん……?」




これでバレてしまった、と思うよりも早く、





「りこさん」





と、至近距離で名前を呼ばれる。



こんなこと、元彼が最後にやったのはいつだっただろう。

心地好い微熱が、直接両頬に染みていく。




「俺、やっぱここに住んでいいですか?」





そう言われた直後。


我慢しきれなくって落ちた涙が一滴、私の右頬に伝い、宇佐城さんの左手に零れる。





「前の男のことなんて俺が忘れさせるし、りこさんを泣かせたりなんてしない」





柔らかい笑みを浮かべたまま、「ね?」と言う。





「だから、俺を飼って?」





寂しい女だって、思われてもいい。


惨めな女とも、思われたっていい。





彼の細めた目と、両手の温かさ。



もう、浸ってしまおう。






グスッと鼻を1回すすり、手の甲で涙を拭い取る。






「宇佐城さん」

「はい」





「これから、どうぞよろしくお願いします」





腰を斜め45度。


私は、丁寧に、丁寧にお辞儀をしたのだった。


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