赤ずきんは狼と恋に落ちる



久しぶりに見る彼の姿は、やけに楽しそうだった。


隣の女性は、しっかりと指を絡ませて手を繋いでいる。



この人とか……。



私を振った理由の一つは、「つまらなくてダメな女だから」。

もう一つは、恐らく、彼女のことが好きになったのだろう。




あの時は辛くて泣いたけれど、今はそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。


近くに居てくれる、他の誰かを好きになったからだ。



「お幸せに」と、少し皮肉を込めて心の中でこっそり言う。


でも、今の彼女の前で、彼に会うのは非常に気まずい。

しかも、千景さんを待っている時に。



バレないように、さらに背中を丸める。







しかし、それは何もならなかった。





彼らが向かっているその席は、

私が今座っている席の対角線上だった。


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