やさしい手のひら・中編【完結】
嫉妬
スタジオに入り、田村さんに挨拶をして、着替え室に来た

「亜美ちゃん、さっき川崎くんに会ったわよ」

「やっぱりいました?」

「久しぶりに会ったけど、男らしくなったわね」

「そうですね」

「あとで見学させてほしいって言ってたわよ」

「えっ、健太がですか?」

「うん、だからいいわよって言っておいたわ」

そんな、見学だなんて・・・周りにばれたらどうしよう。たとえ別れたことになっていても、やりずらいし、緊張するし・・・

「元彼ってことになってるし、大丈夫でしょ」

田村さんはニコッと笑って言ったけど、そんな簡単なことじゃないのに・・・

憂鬱のまま撮影の時間になり、準備が出来た私はスタジオに向かった

あの日以来、新くんと会っていなかった。私も言いたいことを言ってしまったので、顔を会わせづらかった

「この間はありがとう」

「あぁ」

一瞬だけ私を見て、その後は目を反らされてしまい、どこか一点を見つめながら、

「Blacks来てるみたいだな」

「うん」

「準備いいですかー」

スタッフに声を掛けられ、私と新くんはセットの方へ行き、今日も緊張しながら撮影をしていた

「また緊張してんの?」

「大丈夫」

「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃん」

また私の腰に手を回したり、後ろから抱きついたりしてきた

「ちょっと」

「俺がこうすれば、力抜けてるだろ」

そうかもしれない。新くんが腰に手を回したりするたび、私は新くんに怒っていて緊張することさえ忘れている

「ほんとだ・・・」

「亜美は俺に合わせれって言ったじゃん」

「あ、うん」

「Blacksの健太が見てるぞ」

「えっ?どこ?」

私は暗闇の中、入り口の方を見て健太を探した

でも暗くて、周りが見えない

「嘘」

「もぉ、焦ったじゃん」

私は新くんの背中を叩いて、プイッと横を向いた時、

「健太」

健太が入り口の逆の壁にもたれ、腕を組んで見ていた
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