アロマな君に恋をして

悔しいけれどサマになりすぎてる料理中の麦くんの姿を見ること数分……

すべての材料をお鍋にセットし終え作業が一段落した彼が、大き目の遮光ビンを手にこちらに近づいてきた。


「……それは?」

「俺がブレンドしたマッサージオイルです。おでん煮えるまで暇なんで、なずなさんにやってあげます」

「やってあげるって……マッサージを?」


まさか、イカガワシイ目的ではないわよね……?

ソファの隣に腰かける彼を警戒して、私はちょっぴりお尻を横にずらした。


「変なことするんじゃないかって疑ってるんですか?大丈夫です。たとえ友達ポジションを飛び越えても、軽々しくそういうことはしませんよ。
なずなさんのこと、大切だし」


大、切……この間も言われたその言葉は今日もじんわりと胸に沁みわたる。

私を大切にしてくれていたはずの前の彼氏とあんな別れ方をしてから、自分をそんな風に扱ってくれる人はどこにもいない気がしてた。


来年には30歳になるし。お化粧の仕方も忘れてるし。仕事のことしか頭にないし。優しくされても意地を張ってうまくお礼も言えないし。

そんな私でも、大切にしてもらえる権利があるのかな……


しんみりとそんなことを考えていると、麦くんの座る左側の方からふわふわと、甘い香りが漂ってきた。


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