きっと上手くいく

平穏無事な区役所生活を何年か過ごす
僕には
出会いもなければ別れもなかった。
別れは寂しいから
出会いはいらない。

僕は春から戸籍係に移動した。

『婚姻届の提出はここでいいですか?』

希望に溢れる男女が来る場所。

僕は『おめでとうございます』と言い、手続きをするけれど、たまに【早く別れろ】って思う。たまにだから許して欲しい。声には出さないから許して欲しい。

あぁ
僕に彼女がいたら
心の底から愛して
いつも優しくして
いつも隣にいて
幸せにしてあげるのに。

『あー誰でもいいから彼氏ほしいー!え?石橋さん?ないない絶対ないわー』

ある日の昼
給湯室からそんな声が聴こえたっけ。

『石橋さんってまだ26でしょう』

『みーえーなーいー』

『実家通いで毎日お母さんがお弁当作ってくれるんだって』

『マザコンなんだ』

うちの課の女の子達ではない。
派遣で来ている
綺麗な女の子達だろう。

ある程度
僕の事を理解してくれた女子の皆さんは、意外と友好的で優しい。
僕が外見をバカにされたら、相手に向かって抗議してくれる。
きっと恋愛が絡んでないから味方になってくれるのだろう。

僕は足音を立てずに戻り
母が作ってくれたお弁当を自分のロッカーに戻す。

マザコン

オタクでマザコン。

明日から弁当は中止にしてもらおう。

僕は時計を確認し
区役所の隣にあるお弁当屋さんに足を運んだ。




< 15 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop