打ち上げ花火とミルクティ
 ドアの前に立っても、緊張はしなかった。



質素なドアノブに手を掛け、ゆっくりと回す。



ムッとするような香水の匂い。



赤やらピンクやら黒やらの様々な衣装、いくつかのロッカー。



どうやらここが楽屋で間違いなさそうだ。



そう認識した瞬間に、あの女を見つけた。



見つけたというよりも、あまりに自然に視界に入って来たので、最初から目の前にいたかのような錯覚に陥りそうだった。



女はニッコリと笑いながら璃梨に近づいてきた。



黒いハイヒールのコツコツという音が響く。



璃梨の目の前に立つと、さらに笑顔を深めた。



甘ったるい香水の匂いではなく、爽やかでどこか男性のような香りがする。



近くで見ると、さらに美しい。



あれほどの色香を漂わせていたのでわからなかったが、意外と若い。



璃梨と変わらないほどだった。
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