打ち上げ花火とミルクティ
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水野璃梨が『escape』の一員になった時に咲いていた桜が散り、どこかの海水浴場にはクラゲが大量発生し、山が紅く色づき、紅く色づいた木々が裸になった頃。



長谷川恵斗の自宅のポストの中には、一通の手紙らしき物が入っていた。



恵斗の自宅は不動産会社曰く『セキュリティの整ったマンション』なので、ポストは自室の玄関扉についているのではなく、一階に全戸分が取り着けてある。



全戸分のポストの前には自動ドアがある。



ここまでは誰でも入れるようになっているが、エレベーターに乗るには指紋認証システムをくぐり抜けなければならない。



つまりはまぁ、ポストまでは誰でも辿り着けるというわけである。



中途半端なセキュリティ。



恵斗は日々そう思っていた。



比較的有名人の恵斗は、以前に何度か郵便物を盗まれた事があった。



携帯電話やクレジットカードの請求書。



そんな事があっても引っ越しをしようとしないのは、ただ単に面倒だという事もあるが、盗まれて特別に困る様な郵便物がないからだった。



請求書の明細に関しても、インターネットで見られるし、請求書が手元にあってもなくても容赦なく引き落とされるのだから。



それに、別に内容を見られて困るものも買っていない。



つまりはまぁ、どうでもいいのだ。
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